知床・斜里はオオジシギの繁殖地「この草むらの中にスナイパーが1人隠れています」
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犬の散歩コースにあるオオジシギの繁殖地
朝の犬の散歩コースはいつも決まっている。うちの近所にある野っ原に沿った道を歩いてから、町内会を一周して帰ってくるのが日課になっている。もともとはこの辺り全てが農地だったのだが、地主が少しづ小売りして宅地が広がっていった。いまじゃ宅地が大半で、元農地の野っ原の方が小さくなってしまった。
それでもその野っ原は5ヘクタール超はあるのではないだろうか。小規模のウッドストックなら開けそうだ。住宅地横にそんな広大な野っ原が開けて、そこだけ自然に溢れている。その野っ原に面した通りでは、住宅街を歩いていてはめったに聞くことの出来ない小鳥の鳴き声が溢れている。ヒバリが空高く騒々しく鳴いている。みれば分かるものの、声だけじゃ分からない美声の鳥の声が数え切れないほど聞こえてくる。
そんな中にひときわ賑やかに、個性的な鳥の鳴き声が早朝の住宅街・野っ原に響く。
ジップ、ジップ、ジップ、ジップ、ジップ、ジップ。ズビャーク、ズビャーク、ズビャーク。
大好きなオオジシギの鳴き声だ。ズビャークと鳴いているものの、その後に続くカミナリのような風を切る尾羽の音が聞こえてこない。これは電信柱にでも止まって鳴いているな、と辺りを見回す。
ズビャーク、ズビャーク、ズビャーク。
だけども声はすれども、何処にもその姿は見えない。犬とどんどん道を進んで行くと、その声が徐々に近づいてくる。何処だこの鳴き声の主は? 毎朝電信柱に止まって鳴いている彼に違いない。だが、今日はいつもの電信柱には居ないぞ?
そう思って辺りを探ってみると、その声は草むらから聞こえてくることに氣がついた。そうオオジシギが草むらに潜んで鳴いているのだ。だがあまりにもこの声は近過ぎる。すぐそばにオオジシギがいるに違いない。
草むらに潜むスナイパー
そう思って音のする方角を探っていると、草むらからこちらを伺っている視線を感じた。音もそこから発している。音の発生源は雑草が盛り上がったように見える部分だった。
だがじーっとよく見ていると、なんとオオジシギが草の盛り上がりの上に座っているではないか。そしてこちらを向いて、何気ない顔でジップ♫ジップ♫ジップ♫ジップ♫ジップ♫と鳴いている。オレはさっきからここにいるもんねーぇ、とばかりにすぐ側に人間と犬がいると云うのに平然とジップ♩ジップ鳴いている。
それにしてもなんて見事なカモフラージュだ。もしこれがオオジシギではなくスナイパーなら、間違いなくオレは射ぬかれていたろう。
唐突にスナイパーなんて言葉を持ち出したのには訳がある。オオジシギの英語名はLatham’s snipe(Japanese snipeとも呼ばれる事がある)。そうシギと云う鳥はSnipと呼ばれているのだ。オンライン辞書でsnipeを調べてみると、カモフラージュした見かけに、長いくちばしを持ち、そして響き渡る羽音と言う項目が見つかる。
これを読むとシギ類の行動はそのまま狙撃手のsnipeに転用されたということなんだろう。
そう、散歩中に出くわしたオオジシギは完全に草むらにカモフラージュされていた。鳴きさえしなけれ、彼がそこにいるなんて全く分からなかったのだ。道路からたった3m先の草むらの中に鳥が潜んでいるなんてね。正にスナイパー。長い銃口をこちらに向けてジップ♩ジップ♩と笑い声をあげたのに違いない。
よく電信柱に止まっているオオジシギは見かけるのだが、オレのたった3m手前に、草むらの中に潜んでいるのを見たのは初めての経験だ。
滅多にない機会なのでじっくりと彼を観察させてもらった。地味だけども、何とも美しく愛らしい鳥だ。そんな訳でまたしてもオレの心は、この鳥に射止められてしまったのだ。
住宅地にあるこんな自然を末永く保って欲しいと思う。
ここまで読んで頂きありがとうございました。記事をシェアしていただけたら有難いです。 東倉カララ