カラスからの贈り物 カラスの恩返し
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カラスの悪戯? お礼? 会社前の道路に散乱する貝殻
今朝も勤め先の社長が玄関先の掃き掃除をしながら、ぶつくさ文句を言っている。「あいつら又貝殻を持ってきやがった」
どうしたのか聞くと、
「毎日カラスが貝殻を持ってきて、会社の玄関前になげて行きやがるんだ。汚なくなるから止めて欲しい」と言う。
注意して道路を見てみれば、確かに沢山の貝殻の破片が散乱している。社長の説明だと、殆ど毎日のようにカラスが貝殻を持ってきては、その辺りの道路に置いて行くと云う。オレにそう愚痴を言いながら社長は、足下に落ちていた貝殻を踏みつぶして粉々にしている。
実は会社に貝殻をもってくるカラス達は、その社長が面倒を見ているのだ。家で鮭などを捌いた歳に、食べない部分が出てくる。そうした残渣を会社にもってきては、歩道の縁などに放置しておく。するとカラスがすぐさまやって来ては、食べてゆくと云う。貝殻をもってくるカラス達は、実は社長のお友達だったのだ。
そうやってカラスに食べ物を分けてやっているのに、貝殻を持ってきて汚して行きやがると、社長は憤っているのだ。
カラスは人をちゃんと見ている
実は我が家でも庭にやって来るカラスに、ちょっとしたおやつを食べさせている。切っ掛けは片足のカラスが庭をぴょんぴょんと飛び跳ねているのを見かけた事からだ。片足で不便だろうが、それでもたくましく生きているカラスに憐憫を抱き、魚の頭や肉の脂身などを少しずつあげるようになった。
そうした「カラスのおやつ」を車庫の上に放り投げておくと、どこかでカラスはオレの動きを見つめている。すぐさまどこからともなくカタアシ君たちが飛来して、おやつを食べてゆく。最近では庭のフェンスに止まり、鳴いて催促するまでになった。そうなるとカラスが益々かわいらしく思えてくる。
ある時、町外れの道路の一時停止線で車を止めて左右を確認していた。道路を渡った向かいの歩道に爺さんが歩いているのが目に入った。すると後方から1羽のカラスがサーッと降下してきて、その爺さんの手前1m程のところに着地するでは無いか。そのカラスの奇妙なな行動に驚いていると、今度は爺さんがおもむろにポケットに手を突っ込み、何かを取り出してカラスの前に放り投げた。
次の瞬間カラスはそそくさと爺さんが放り投げたモノを口にくわえ、ありがとうとでも云うように、爺さんを一瞬見つめてから、ふたたび空に飛び上がった。その間わずか30秒ほどの出来事だった。
その爺さんは明らかに散歩の様子だった。どうやら散歩の日課としてここまで歩き、そしてここで待っている馴染のカラスに餌を与えているようなのだ。カラスは嫌われ者でもあるけれど、こうやって餌を与えてかわいがっている人も決して少なくないのだと驚いた。カラスも人をよく見分けている。オレが家の周りをうろちょろしていると、必ず誰かが飛来して屋根の上に止まりオレの動きを観察している。
カラスからの贈り物
さて話は会社のカラスに戻る。カラスはただ餌を貰うだけじゃない。カラスの頭の良さは誰もが知るところだけども、彼らは賢いだけじゃなくとても愛情深い生き物なのだ。仲間内で餌を分け与えたりするのは当たり前だ。
そんな事から毎日食べ物を貰う人間に対して、カラスが感謝の氣持ちを持ったとしても驚く事じゃない。そう、毎日カラスが会社の前になげてゆく貝殻は、どれも白くて綺麗なものばかり。これはカラスからの贈り物なのだ。残念ながら社長にはその氣持ちが伝わっていないようだが。
そう思うと、会社前の道路に散乱しているおびただしい数の貝殻の欠片は、カラスの親愛なる情の証なのだ。そんな貝の欠片は、会社のお隣さんの宅地前には欠片も無い。明らかにこの会社の前だけに置かれている貝殻。その事を社長に伝えると、眉間にしわを寄せ、分かったような分からないような表情をした。
ところで我が家のカラス達は、何時になったらオレにお礼の品をもってくるのだろうか? いや実はあいつらは、もうすでにオレにお礼をしている。カタアシ君達はキツネが我が家に近づいたら、オレに教えてくれるのだ。我が家にはカラスの見張りが付いている。我が家では大切に飼っている鶏がいる。そのためキツネがその鶏を狙って度々やって来るのだ。だけどもキツネが我が家の庭に現われると、カラス達がカーカー騒ぎ立て、彼奴の接近をオレ達に教えてくれる。我が家の鶏は黒づくめのセキュリティ・ポリスに警護されているのだ。
だからオレはちゃんカラスの恩返しを受けている。それ以上を望むなんて、強欲は罪だ。
ここまで読んで頂きありがとうございました。記事をシェアしていただけたら有難いです。 東倉カララ