オレのスタンド・バイ・ミー 40年前の10歳の夏を思い出す

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スタンド・バイ・ミー

大学生活が始まって1ヶ月が経過

 オレが大学に入学したのは32年前。バブル経済が膨らむ直前だった。誰も知らない土地で一から友達を作るってのは、オレみたいな性格の人間には難しいことだった。しかも入学早々出だしでコケてしまったのが尾を引いて、親しく話せるクラスメートが出来たのは1年生の後期に入ってからだと思う。

 それは5月の連休前だったか、連休が終った頃だったか、はっきりとは覚えていない。1学年が始まり1ヶ月経ったところで、お互いを知ろうという事で、初めてのクラスコンパが開かれた。集合場所は渋谷の109前。なんで駿河台にしなかったんだよとオレは思う。まだまだお茶の水以外は、東京の町は良くわからない。しかも渋谷みたいな複雑な駅は、オレはまだ何口から降りればいいのかさっぱり勝手が分からない。そりゃあ事前にぴあマップで場所は確認していた。地図で理解は出来たが、現地に行ってその通りの場所にすぐ行けるものじゃない。

結局の所、集合時間に20分ほど遅れて到着した。多くの人で賑わう109前。だけどもオレの知る顔は一人もいない。置いてかれちゃったな。でも、ひょっとしたら誰かが見にきてくれるかもと、しばらく待っていた。けれども結局の所、誰も現われる事はなかった。

渋谷109の前で、田舎から出てきたばかり感満載のあんちゃんが、そんなお洒落な所でアホ面して1時間近くぼーっと立っていた訳だよ。そんな事もあって、その後なおさらクラスメートと親しく交わろうという気になれなかった。

終電乗り遅れたので見たスタンド・バイ・ミー

オレが悪いんだが置いてけ堀をくらって、土曜の夜だと云うのにただ帰宅するのはもったいない。そこで新宿で映画を見てから帰る事にした。何故渋谷じゃなかったかと云うと。渋谷は何処に映画館があるかさっぱり把握していなかったからだ。

ついていない時はついていないもので、その日映画を2本続けて見終わると、終電が終っていた事を知った。しょうがない。さらに深夜上映の映画を見て、始発電車を待つか。

場所はコマ劇場の前の映画館街。その当時コマ劇場前広場には、真ん中に噴水があって、ラグビーの明早戦の後だと、学生が噴水に飛び込むのが当たり前だった。結局オレは一度も明早戦を観に行かなかったけどね。ラグビー日本代表の吉田義人がクラスメートだったのにね(彼がそんな有名人だったというのは4年生になる頃に初めて知った)。

いくつかの館を回ると1時ぐらいから「Stand by me」を上映しているのを見つけた。これは浪人中から見たくてしょうがない映画だった。まさか、こんな時に見られるとは。映画館内はオレみたいに始電待ちの人なんだろうか? 深夜の1時なのに館内は人でいっぱいだった。人気のない田舎から来た人間にとって、こんな時間に人が溢れているのがとても驚きだった。

 誰も頼るものが無い環境に暮らし始めたばかりのオレにとって、あの映画はとても勇気と郷愁をかき立てられた。田舎の子供にとって、誰もが経験したようなちょっとした冒険。大人になってすっかり忘れてしまった、でも心の何処かに消え去る事なく残っている、そんな思い出がつまった映画がStand by meだった。

親達に内緒で秘密の計画を立てて、子供達だけで森の奥地に探検に行く。映画は死体を見つけに行く冒険だったが、10歳程度の子供にはどんな小さな事でも冒険だった。冒険と言うだけでワクワクした。そんな冒険がつまっているのがこの映画。そんな忘れてしまったと思っていた記憶が蘇り、映画館を出る時に泣けてしょうがなかった。朝4時の朝焼けの人込みの中をトボトボと駅に向かう。映画の主人公たちのように。疲れた足取りで。

斜里郊外の沼地で白骨を発見!

 斜里の北の外れには自動車学校がある。オレが子どものころは(40年以上前の事)、教習コースの東側は春の雪解けの水が溜る、巨大な沼地だった。春に出現した沼地は夏頃まで水深30〜40cmの深さを保っていた。

その沼地は残念ながら、今はオートバイの教習コースになっている。その沼地の存在は、当時は極く一部の子供達しか知らない秘密の遊び場だった。街中では見つけづらいミズカマキリ、大型のゲンゴロウ類、ヤゴ各種がそこに行けば獲れ放題獲れる。虫取りに夢中になっていると、腕にヒルが張り付いているなんてこともあった(玉袋じゃなくて良かったよ)。

 ある日同級生達とその沼地で虫取りをしていたら、「骨だ!」と叫ぶ奴がいる。その声にみんなが反応して集まってみると、奴の指さす先に白骨が、泥の中にはめ込まれたようにあった。

「これ人間の骨なんじゃないか」と言う奴がいる。「だったら警察に届けなきゃ。」「これは事件かもしれないぞ〜」

スゴイものを発見したのかもしれないと、子供たちは興奮して骨を拾い集めだした。泥に埋まり、腐敗臭のする茶灰色の骨の数々。ちょうどすぐそばに、車のホイールキャップが落ちていた。それを容器替わりにして集めてみる。ホイールキャップ山盛りの骨。

「どうしよう?」
「人間の骨かもしれないから、警察に届けなきゃだめだ」「これは事件かもしれないぞ」

どんどんと話は大げさになって行く。

骨を警察署に届けにゆく

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公演横道路
自動車学校から町へ続く公園横の道路。オレが子どものころは歩道は砂利道だったと思う。この道をトボトボと、臭い骨をたないで子供たちは歩いた。

皆の意見が一致して、警察署に届けに行く事になった。ホイールキャップに満載された骨は水分を含み意外と重く、代わる代わる交代で運ぶ。重くて、臭くて、自分の番が回ってくるのが嫌だった。自動車学校から斜里警察署まで運ぶのに30分はかかったと思う。

 警察署について、早速警官に「人間の骨を見つけました」と勢い込んで骨満載のホイールを掲げて見せてみる。と、その警官は一瞥して、
「これは犬の骨だね」とあっさりと言ってのけた。

その瞬間の子供達全員の脱力した顔は忘れられない。がっかりだった。集まりは警察署で解散。帰り道は各自バラバラ散り、皆1人でトボトボと家に向かう。その時の家までの帰り道の足どりは重かった。

 7月は昼の時間がとても長いのでついつい遊び過ぎてしまう。まだ夕方だからと思って、家に帰り着くともう19時30分過ぎだった。家に帰り着くと母親が待ちかまえていた。

「どこでこんな遅くまで遊んでいたの!。靴もびしょびしょじゃないの!」といつものように母に怒られた。

 これがオレのStand by me。ただ疲れて、怒られて。子供はささいな興味に突き動かされて何かをするが、大抵はロクな結果にしかならない。そんな経験を積んで、少年は知らないうちに大人になってしまうんだと思う。


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