まいた豆は犬が全て吸いこむ 2月の節分の思い出
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犬を家で飼っていると節分なんか出来っこ無い
節分と言えば豆まきなんだが、オレが自分の家で豆まきをやり始めたのは、13年前に結婚してからだ。女房はこういった伝統行事が大好きな女で、節分の1週間以上前から豆まきの準備をしていた。北海道では節分に落花生をまく。女房の出身地千葉では炒り大豆をまく。お互いに違う風習に戸惑ったものだが、郷に入れば郷に従えで結婚して初めての節分は落花生をまく事にした。
「鬼は外。福は家!」そう言いながら豆をまくのは家長の役目なんだそうだ。だからオレが豆をまかねばならない。豆入れに山盛りの落花生を手に持ち、まず居間に撒く。「鬼は外。福は家!」
犬のカララは、大きな声を上げるオレの様子に、少し警戒気味だ。『いったい何が始まるんだ?』とその表情が語っている。独身時代から一緒に暮らしているカララだが、豆まきは初めての体験だ。
「鬼は外。福は家!」オレは落花生をむんずと一掴みして、勢いよく居間の中に撒く。バラバラバラと落花生の散らばる音が床に響く。『ボスが何か床に撒いたぞ! いったいどうしたんだ?』カララは一瞬凍りついた。
だがカララが凍りついていたのはほんの一瞬だった。『この臭いは落花生だ。前にも食べた事があるから知っている!』。
彼女の脳の判断は迅速で、的確だ。食べ物だと判断した瞬間にはもう、カララの体は落花生に向かって飛び込んでいた。床に散らばる落花生。勿論殻が付いたままのものだ。カララは床に落ちている落花生を、片っ端からどんどんと口に吸い込んで行く。
落花生を口に吸い込む度に、「フゴッ、フゴッ、フゴッ」という音が部屋に響く。撒いた落花生はみるみる、カララの口の中に吸い込まれて行く。
カララは落花生を食べはしない。ただ口の中に頬張っている。
まさか殻付の落花生は食べないだろう、ただ口に入れただけだと甘く考えたオレは、次に台所に向かって豆を播く。次に寝室に豆を播く。だが、落花生を撒いた瞬間にカララは現場に駆けつけ、豆を遠慮なく吸い込んで行く。「フゴッ、フゴッ、フゴッ」。「フゴッ、フゴッ、フゴッ」。面白いように落花生は、カララの口に消えてゆく。こんなにも沢山の落花生を、その口に入れる事が出来るとは! 口いっぱいに落花生を頬張ったカララの顔はぱんぱんに膨らみかなり間抜けな顔になった。
そこで初めてオレは手を止めた。まずい、これじゃ全部カララの口の中に入ってしまう。しかも消化の悪い殻ごとカララに食べられてしまう。だがもう全ては手遅れだった。オレの手が止まったのをみたカララは、駆け足でオレから離れ部屋の隅に退避する。そこで一気に口に頬張った落花生を、殻ごと粉砕して食べ始めた。落花生を取り返される前に食べてしまおうと思ったのだろう。
「フゴッ、フゴッ、フゴッ」と落花生がカララの口に吸い込まれる様は、まるで掃除機で落花生を吸い込むようだった。吸引力の強いミーレの掃除機で、ガンガンとほこりを吸い込むみたいに、カララは落花生を吸い込んで行った。落花生を撒いても数秒後には、床には何一つ豆が残っていなかった。全自動の世界最先端の掃除機ロボットのようだった。ただし食べられるものしか吸い込まないが。
やはり豆をまけば犬に食べられてしまう
今年も2月3日がやって来た。今年は千葉神社でお祓いをしてもらった炒り大豆を、女房が実家に帰省した歳に買ってきていた。
「鬼は外。福は家」、オレはいつもながら一寸照れながら豆をまく。もちろん豆を直接床にまこうものなら、我が家の2代目・カーシャがさっと駆け寄り残らず食べてしまう。床にまく物はとりあえず口に入れてしまえと彼女も思っているに違いない。
そんな事もあり、カーシャに食べられて良い量の豆だけを部屋にまき、それ以外は彼女の手の届かないところに、たとえばテーブルの上などにそーっと置くようにまいた。そうして今年の豆まきは終った。もうスーパー掃除機を見る事は無い。
たったこれっぽっちの豆と思っていたのに、、、
豆まきが終われば、今度は豆を食べる番だ。自分の歳のだけ豆を食べようと、器に盛ってある大豆を数える。30、40、50〜、と自分の手のひらに豆を取ってゆく。だんだんと少なくなってゆく豆。女房はオレより2つ年上で、オレが自分の歳の分を取ってしまうと、豆が足りなくなるんじゃないかとだんだん心配になってくる。
子どもの頃は、「たったこれっぽっちしか食べられないのか」、と思っていたことが頭に浮かんでくる。ところが今じゃ「こんなに食べなきゃならないのか」と思いながら食べている。カーシャは幾ら豆を食べても、まだ欲しそうな顔をしている。
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