旧斜里町立図書館(築92年)潜入記 知床・斜里町の誇るべき古建築物
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7年ぶりに旧斜里町立図書館に入館した
先日旧斜里町図書館の館内へ潜入してみた。潜入というのは大げさだが、現在この旧図書館内では、葦の芸術原野祭というアートイベントの設営準備が行われている。その様子をちょっと窺いに足を伸ばしてみた。実に久々、閉館以来7年ぶりの入館になった。
オレが子供の頃から親しんできたこの旧斜里町立図書館。初めてこの建物に足を踏み入れたのは1974年だと思う。外観は当時とそう変わらない。左の屋根の上に展望室は昔からこんんなんだったっけ?と思うぐらいだ。だけども近づいて壁などをよくみると、劣化が進んでいるのはっきりとわかる。壁のあちこちに、大槻ケンヂの顔のようなくっきりとしたヒビが表面を走っている。木材の劣化も進んでいる。
旧図書館の明るさに驚く
久しぶりに館内に入ってみる。7年ぶりの館内は、意外な程清々しい空気に満ちていた。予想と違ってかび臭くもない。昔ながらの斜里町立図書館の匂いだ。古い木造建築物の匂いだ。本を借りに来た、子供のオレに戻ってしまいそうになる。
以前は1Fの館内は所狭しと書架が置かれていたが、今は数少ない残った書架が壁際に寄せられているのみだ。ガランとした広い空間が目の前にある。芸術祭の設営のための道具類などが置かれているのが、何とも不思議な気持ちになる。改造手術中といった感じだ。
図書館がこんなに広いところだと思ったのは初めてだった。そしてこんなに明るい図書館を見たのも初めてだ。かつては背の高い書架がにょきにょきと床から天上に伸び光を遮っていたのだ。そのため館内はいつも薄暗い。とくに秋から冬にかけての夕方の暗さは、より寂しさを強めていた事を思い出す。
だけども今目の前にあるこの図書館の光に満ちた空間はなんだろう? こんな景色は初めて見た。7年間誰にも利用されず、ただ朽ち果てようとしていた建物が、若者たちによって息を吹き返してもらった、その喜びがこの空間の明るさに現われているんじゃないのか? そんな事を思った。
2Fの様子
2階に上ってみる。薄暗い上り口から、2Fの薄ぼんやりとしたあかりに向かって登る昔ながらのこの広い階段。オレの気分はもう小学生だ。ワクワクとしてこの階段を上り下りしたことを思い出す。
というのも1978年まで図書館の2Fは、知床博物館の前身の郷土資料館として利用されていたのだ。ホルマリン漬けされた巨大なイカ(ダイオウイカ)見たさに、30円だったか50円を受付で払って見に行った。博物館開館後は、余り読まれない(失礼!)全集物の本や斜里の資料などの閲覧室兼学習室として利用された。
だだっ広く、そしてたいがい誰も居ない、シーンという音がうるさいぐらいの部屋だったので、独りで勉強するには最適の場所だった。そして街から斜里岳にかけての眺めも非常に良い。
というのもこの旧斜里町立図書館は、町の中の一番小高い場所に立てられているのだ。かつてはここは斜里町の町役場でもあったのだ。92年間この町の推移を見守ってきた建物なのだ。町はどんどんと作り替えられ新しくなっても、この建物だけは取り残されてどんどんと古びて行った。
その替わり、この建物にはもう他には代えようの無い価値がどんどんと高まって行くのだ。きっと多くの町民にとっては、なおさら愛着が増して行く建物になってしまった(と思う)。
さてこの2Fも1F同様がらんとしている。窓の下に作り付けされた棚がなければ、ここが図書館だなんて判らない室内になっている。そのがらんどうの空間を今、若者たちの「思い」で満たされようとしている。8月14日からの芸術祭が楽しみだ。いったいどんな展示がされるのだろう?
見張塔からずっと 展望室に初めて上る
さて、この建物には屋根の上に突き出た展望室がある。実のところこの部屋がいつ取り付けられたか、オレはさっぱり覚えていない。子供の頃には無かったように思うのだが、もう既にあったような気もする。なにしろこの展望室に関しては、基本的に立ち入り禁止にされていて、これまで1度も登ったことがなかったのだ。
古びた階段をそーっと上って行く。階段は狭く急だ。階段を上り切ると、そこは4畳ほどの空間になっている。そこからさらに短い梯子を上るそこが展望室だ。元々の屋根裏に、無理っくりこのような部屋をあとから付け足したのは明らかで、非常に不自然な作りになっている。内装は合板で覆われている。2002年製と合板に書かれている。きっとその頃に改装されたんだろう。
展望室から斜里の町360度
展望室せいぜい2畳程の広さしかない。建物の形状は四角。東西南北に向けて全面窓になっているので360度見渡せる。ぐるりと見渡せば、斜里岳、斜里の市街から知床半島まで全部見渡せる。なかなかの景観だ。
ぐるりと回転しながらつながらないパノラマ写真を撮影してみた。残念ながらいつもの8月の斜里の空。つまり曇り空。まあ仕方がないね。
本当なら南の窓から正面に斜里岳がみられるのだが、厚く雲がかかって見られない。キレイな斜里岳ヲみたいという方は、オレが1年間継続して撮影した斜里岳の画像アーカイブがあるので下記ををどうぞ。
怪談 2Fへの上り口はここじゃない
再び1Fに戻る。古びた階段を下りている時に、記憶が蘇った。そうだ子供の頃には、この階段には踊り場があったはずだ! と。よくよく階段を見てみると、1Fにある登り口はあとから取り付けられたものだ。元々の2Fへの登り口は1Fの室内から直接登るのではなく、トイレや裏口のある廊下に1度出て、そこから2Fに登るという動線になっていた。もうそんな事まですっかり忘れていたよ。
よくよく思い出してみると、窓枠だってオレが子供の頃は木ワクだったし、図書館として利用された約40年間の間にもずいぶんと手が加えられているのだ。そうだ子供の頃には暖房の配管が天井に匍っていなかった。
その時々にあわせて少しずつ手を加えられ85年間利用されてきたこの旧斜里町立図書館。常時利用されないまでも、散発的に芸術祭のようなイベント会場として今後も末永く建物としての役割を果たしてもらいたいと思うのだ。
ほんとただ壊すだけではイタマシイ(北海道弁でもったいない)建築物だ。
この建物に目をつけた若い芸術家たちの目は澄んでいるとオレは思う。この建物には妖精が住んでいるんだ。彼らにはそれが見えるんだと思う。だからこの建物に惹かれたんだ。この建物を大事に後世に伝えたい。
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