犬からの贈り物 カーシャと過ごす毎日が特別な日
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ごくあたりまえの毎日
ごく当たり前に過ぎてゆく平凡な毎日は、じつは特別な日だったんだ。何も不安を感じることが無く、当たり前のようにカーシャと散歩に出掛けて帰ってくる、そんな代り映えの無い、いつもの日曜日。
公園でカーシャのリードを外して、自由にしてあげる。秋の枯れ葉の上を、好き放題自由に走り回り、自分の体の筋力の瞬発力を思う存分満喫していたカーシャ。
カーシャが秋の公園を自由に走っていたのは、たった4ヶ月前のことだった。ごくあたりまえに、いつもの様に公園に行き、自由に走り回わる。何も特別なことなんか無い。
ごくあたりまえの、いつものこと。だけどもそれからたった4カ月の月日が流れた。間違いなくカーシャは、もうそんな風に走り回ることはできないだろう。もう二度と。当たり前だと思っていた日々は、実は当たり前じゃなかったんだ。たった数カ月前の出来事が、もう遠い過去のように思えてくる。
毎日が特別な日
当たり前と思っていた日々は、実は特別な日だったんだ。そんな事をカーシャのお陰で気がつくことができた。4ヶ月前に撮影した、秋の公園を走り回るカーシャの写真を見返してみる。カーシャの生き生きとした目。躍動感溢れる、疾駆する肉体。その写真を見て、そんなごく普通の日々と云うのは、実は特別な日だったんだ、と思い知らされる。だから毎日が特別な日なんだ。
今朝もカーシャといつもどおり散歩に出掛ける。クレートで横になっていたカーシャは、オレが散歩の準備を始めると駆け足で玄関に駆けつける。痛む足も気にせずに、びっこをひきながらもダッシュでクレートから駈つけてくるのだ。カーシャにとって散歩は犬生そのものなんだろう。
喜び勇んでカーシャは玄関を出る。オレを引っ張らんばかりに歩き出すのは、ほんの5m程の間のことだ。すぐにカーシャの足取りはゆっくりとなる。痛む足をなるべく地面に着けないように、カーシャの歩調は極めてゆっくりとなる。
オレを引っ張りまくる7年間
カーシャがこんな病気になる前は、ずっ〜〜と、それこそ我が家に来たときからず〜〜〜っと、散歩時はオレを引っ張りまくっていた。あれこれと対策をしても、リードの引っ張り癖だけは治ることが無かった。7年で多少マシにはなったけれども。
そして今現在、カーシャの引っ張り癖は、ようやく収まった。今のカーシャは、とぼとぼとしか歩けない。たるんだリードが足にからまないように、オレは少し短めに調整して持つ。カーシャがオレを強く引っ張る事は、もう無いので、散歩はとても楽な日課になってしまった。
だけどもこうも考えられる。犬が散歩の時に飼い主を引っ張ると云うことは、言い換えれば犬の歩調に飼い主が合せるということ。そう考えると、またもやオレがカーシャの歩調に合せて散歩することになったと言うことだ。結局カーシャはオレの歩調に合わせては、歩いてくれなかったんだ。
当たり前に思える普通の毎日は、実は特別な日なんだ
「ガンとは長生きする病気だ」と言う言葉を聞いたのは、藤原直哉さんの何かの発言だったと思う。カーシャが悪性腫瘍と診断されて1カ月が経過した。カーシャは体調の良い日もあれば、悪い日もある。日々小さな変化の果てに明日を迎える。昨日と同じ今日は無い。間違いなく明日は、今日とは違う日がやってくる。
今日のカーシャの体調はどうなんだろ? 今日はご飯を残さず食べるかな? 散歩も昨日と同じ距離を歩けるんだろうか? 今日は昨日よりも調子が悪そうだ。今日のカーシャは調子が良さそうだぞ。そんな風に毎日カーシャの体調を観察している。
そんな時にふと頭に浮かぶ事がある。
「遺されたカーシャの日々の中で、今日はカーシャにとって1番調子が良い日なんだ」と。
毎日毎日は同じ日の繰返しじゃない。今日は残りの人生で1番の日なんだ。そんな風に考えたら、なんでもない普通の日の今日は、実は特別な日なんだ、ということに気がつく。実は毎日毎日が特別な日なんだ。こんなに調子の良さそうなカーシャは、もう見られないかも知れないのだ。
そんな事をカーシャの看病を通して、気がつかせられた。毎日が特別な日。これはカーシャからの、私達夫婦への素晴らしい贈り物だ。
そんな特別な贈り物を、私達はあと何日カーシャから貰えるんだろう? そんな事は誰も判らない。
「オレはあと何日生きられる?」
これは映画ブレードランナーの中で、レプリカントのリオンがデッカードに向かって言うセリフだ。さりげないセリフだが、この映画の内容を凝縮した印象的な一言だとオレは思っている。
そうカーシャどころか、オレも、あと何日生きられるかなんて、そんな事は誰も知らない。
だから毎日やってくる「特別な日」を、大切に生きようと思うのだ。
ありがとうカーシャ。
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